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漢方医学の「弁証論治」について |
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東洋医学では、臨床的に「弁証論治」という極めて重要な原則があります。すなわち「(病)症を弁別しながら、治療を論ずる」と |
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のことです。 |
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数年前、仕事の緊張などによりストレスが溜まり、胃の調子がかなり悪くなっていた時期がありました。病院へ行って様々な検査を |
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受けたところ、どこにも器質的な病変が認められませんでした。「胃酸過多」だと診断され、最初は「ガスター10」、効果がない |
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から、続いてガスター20が投与されました。しかし数か月を経っても症状が一向も良くなりません。 |
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担当医の先生はかなり困っている様子でした。ある日、先生がポケットから小さな冊子を出して、「賀さんは漢方に詳しいから、何 |
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か良い漢方薬がありますか」と尋ねられました。それは保険に適用されている「ツムラの漢方」でした。 |
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そこまで言われましたので、遠慮なく「逍遙散」があれば処方して頂けますかと返事しました。先生は冊子を調べながら「逍遙散が |
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ありませんが加味逍遥散があります」。薬の組み合わせが基本的に変わらないので「それでもいいですよ」と先生に告げました。 |
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しかし、先生が首を横振りながら「これはダメですね」。なぜならば、冊子の「効能・効果」に「冷え症、虚弱体質、月経不順...」 |
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などが書かれているので、これは「婦人病の薬じゃないの」と先生が処方してくれませんでした。代わって「四君子湯」が処方され |
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ました。勿論効果がありませんでした。 |
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漢方の「弁証論治」をすれば、「四君子湯」と「逍遙散」とのちがいがすぐわかります。 |
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「四君子湯」は「脾胃虚弱」、すなわち胃腸の弱い病気を治療する薬で、「逍遙散」は「肝気犯胃」、すなわちストレスなどが引き |
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起こされた消化系疾患を治療薬です。東洋医学の理論から見れば、前者は「虚」証で、後者は「実」証です。虚証に対して「補法」 |
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で正気を補い、実症に対して「瀉法」で邪気を取り除かなければなりません。「八綱弁証」や「臓腑弁証」によって、両者は「虚」 |
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と「実」の正反対の性質を持ち、まったく違う病気の類別ですので、治療法も薬も違うものです。 |
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また、中医学では「治病求本(病気を治すには、その元(原因)を追求しなければならない)」という治療原則があります。「ツム |
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ラの漢方」に記載されているのは「精神的なストレス」による生理不順などの「婦人病」は、私の胃病の原因と同じです。すなわち |
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病気の「本」が同じなので、本来は適応症のはずです。しかし、西洋医学出身の先生がこの中医理論を理解していないから、単なる |
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「胃」という西洋医学の解剖的観念から病状を考えて、処方してくれませんでした。ちなみに、東洋医学では胃病にも「脾胃虚弱」 |
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や「肝気犯胃」や「胃寒」や「胃熱」など様々な類型があり、婦人病にも「肝腎不交」や「腎虚」や「気血不足」等々の類型があり |
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ます。これらの病症を「弁証」しないまま、漢方の治療効果がえられません。これだけではなく、時には病状を悪化させる場合があ |
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りますね。 |